

丸の内、八ヶ岳、そして全国へ。
都市と地方の想いをつなぐ、サステナブルな野菜スープが生まれるまで
ロイヤルパークホテルズ
野菜そのものの旨みが、とろけるように身体に染みわたる―。
ロイヤルパークホテルズで2024年9月1日~10月31日の期間限定で提供されているオニオンとトウモロコシ、ふたつのスープ。
素材は八ヶ岳の有機農家が大切に育てた野菜たちだが、実はその豊かな風味に、東京の中心にある皇居外苑濠で増えすぎてしまった水草「ヒシ(菱)」がひと役買っている。
皇居外苑濠の環境再生に携わる人、土からこだわり野菜を育む農家、そして心に残る味わいを引き出すシェフ。都市と地方を循環のバトンでつなぐ「サステナブルな野菜スープ」のプロジェクト。関わる人たちの想いを追った。
CHAPTER01
皇居外苑濠で増えすぎた水草に、新しい役割を
野菜スープの物語が始まるのは、東京。豊かな緑に包まれた皇居外苑濠だ。
大手町・丸の内・有楽町と、日本を代表するビジネス街のそばにある生物多様性の宝庫として、ここは都市で働く人たちが喧騒から離れ、ゆったりと過ごせる憩いの場になっている 。
しかし、この穏やかな水辺空間は長年ある問題に悩まされていた。夏場になると、水草の一種である「ヒシ」が繁茂し、水面を覆い尽くすほどになってしまうのだ。

ヒシは決して悪者ではなく、水辺に暮らす小さな生物の隠れ家、という大切な役割を持っている。
しかし、あまりに増えすぎると水底に日の光が届かなくなり、生態系のバランスを崩してしまう。
この問題に取り組んで来たのが、ロイヤルパークホテルズのファミリーである三菱地所。環境省と協力して、皇居外苑濠の水辺の生態系を復元し、生物多様性を守ることを目指した「濠プロジェクト」を進めてきた。

三菱地所と環境省が協定を結び、皇居外苑濠を中心とした水辺環境の復元と、
生物多様性の保全を目指して活動する「濠プロジェクト」。
活動に参加しているメンバーの中には、大手町・丸の内・有楽町エリアで働くオフィスワーカーの姿も。


三菱地所株式会社
サステナビリティ推進部プロモーションユニット 業務主任
長町 真理子氏
「ヒシの堆肥化実験(食農ラボ)」を担当。環境省や農場、 レストランなど多様な関係者を有機的につなぐパイプ役として活躍している
「ちょうどその頃、サステナビリティ推進部内では北杜市の有機栽培農家と協働し、都市と地方をつなぐ取り組みができないか、という検討案が持ち上がっていました。そこで、増え過ぎたヒシを植物由来の堆肥にする実験をしてみよう、ということになったんです」
皇居外苑濠のヒシに与えられた新しい役割。三菱地所の想いとともにヒシは山梨・八ヶ岳の大地に運ばれ、有機栽培農家へと託されることになったのだ。

CHAPTER02
都市と地方の間に生まれる、有機的なつながり



株式会社ファーマン井上農場
代表取締役
井上 能孝氏
高校時代のアメリカへのホームステイを機に農業に関心を持ち、有機農場で働きながら研さんを積む。 21歳のときに北杜市に移住。地域の福祉施設との連携や企業とのコラボなど、農業の可能性の拡大に取り組んでいる
一般的に普及しているのは、畜産で出る動物の糞尿を主成分とする動物性の堆肥。しかし、井上氏がヒシを使って取り組んだのは、落ち葉と米ぬかとヒシだけを使った、100%植物性の堆肥づくりだ。
「動物性の堆肥は栄養価が高く、野菜が早く育つのを助けるので多くの農家で使われています。一方で植物性堆肥のいいところは、微生物の栄養となる豊富な繊維質。同じ地域、同じ場所で野菜を作り続けても、栄養過多にならずに土の中の環境を整えてくれます。持続可能な農業を考えるうえで、植物性堆肥は大きな可能性を秘めているんです」

農場がある山梨県北杜市は農業がさかんな土地だ。八ヶ岳と南アルプスに由来する豊かな水。日本でも有数の長い日照時間。高原ならではの清涼な気候。これらの地形的な特徴は、野菜の「生産」という目線で見ると厳しい環境でもあるという。
「昼夜の寒暖差があるこの場所は、ゆっくり野菜が育ちます。効率よく生産性を上げて大量に作る観点で農業を捉えるなら、不利な場所ということになります。一方で、ゆっくり野菜が育つことで味が濃くなり、香りや甘さが引き出されるという良さがある。おいしさで考えるならば最高の環境なんです」

農場を案内してくれる井上氏。化学物質に頼らない農業生産を行っており、
自然の力で農作物を育成したことを証明する「有機JAS認証」も取得している





畑に生えるバジルの前で語り合う松山総料理長と、
日焼け対策を兼ねたモダンな作業着姿で向き合う井上氏。
農薬を使わないため、周囲にのびのびと草が生えているのもファーマンの農場の特徴だ
皇居外苑濠で悩みの種だったヒシが、八ヶ岳の農場で堆肥となり、おいしい野菜を育てる。その野菜はこれから再び都市に運ばれ、スープに生まれ変わるのだ。一見遠く離れた場所同士が、ヒシと野菜を介して結ばれるその姿を通して、井上氏はSDGsの理念を見つめている。
「スープを通じて、都市の真ん中にある皇居外苑濠と僕たち地方農場がつながることで、双方向の理解が生まれます。そして農家が消費者のことを考え、消費者が農家のことを思うきっかけにもなり、互いに顔が見える関係性が生まれてくる。SDGsが伝える持続可能性とは、そういうことじゃないかと僕は思うんです」
晴れ空の下、この畑に集った都市と地方それぞれの人。
目を見て、笑い、ともに汗をかく、そんな有機的なつながりがおいしい野菜を、豊かな自然を守りたいという願いになる。
それがいつしか地球環境を守り、豊かな食文化を未来へとつなげていく。

CHAPTER03
スープに込める想いが、持続可能な社会の架け橋に
